ふれんち茶懐石ノート|実践編 #03

馬肉ロースのパネと『会津磐梯山』 —— 隠語が織りなす、主役(キラーメニュー)の料理設計

 

こんにちは、料理設計家の秋本です。

 

三代目 杵屋栄之丞氏とのコラボレーションイベント「三味線ラウンジ」の御献立をひも解く実践編。前菜、スープと続いて、いよいよメインディッシュ(強肴)の登場です。私がこの特別な夜の主役に据えたのは、フレンチでは珍しい「馬肉」でした。

 

 

一皿の設計図:会津で育った馬肉ロース肉のパネ 煎茶のエキス

コースの満足度を決定づけるメインディッシュ。ここで私は、あえて牛や羊ではなく、福島県会津地方の大自然で育った「馬肉」を選び、サクッとした食感の衣をまとわせたフランス料理の技法「パネ(カツレツ)」に仕上げました。

 

ソースには、煎茶の心地よい苦味と旨味を凝縮した「煎茶のエキス」を合わせる。この一見大胆なメニュー開発の背景には、日本の食文化の歴史にある「隠語」と、三味線が奏でる「土地の記憶」を繋ぐ緻密なロジックがありました。

 

1. 歴史の制約を「メニューコンセプト」に翻訳する

なぜ、春のフレンチに「馬肉」なのか。その答えは、日本料理の歴史における「隠語説」にあります。

 

獣肉の摂取が公に禁止されていた江戸時代、先人たちは役人の目を欺き、あるいは自らの後ろめたさを和らげるために、馬肉を「サクラ」と呼んで密かに愉しんでいました。

この「桜」という隠語のストーリーこそ、春のディナーコースの核心にふさわしい。単に美味しい高級食材を並べるのではなく、歴史の背景をユーモアに変えて一皿に落とし込む。これこそが、私が提唱する料理コンセプトのあり方です。

 

2. 民謡『会津磐梯山』から歌舞伎の世界へ繋ぐ音の動線

このメインディッシュが提供されるとき、栄之丞氏の三味線が奏でるのは、馬肉の故郷である福島県の民謡『会津磐梯山(あいづばんだいさん)』です。

 

郷愁を誘う力強い民謡の旋律が響くなか、お客様は会津育ちの馬肉を噛み締め、その力強い旨味を味わう。そして曲はシームレスに、江戸歌舞伎の最高峰である『助六(すけろく)』や『籠釣瓶(かごつるべ)』の黒御簾音楽へと移り変わっていきます。

吉原の花街を舞台にした粋で華やかな江戸の音律が、馬肉の「サクラ(吉原の代名詞でもある桜)」という隠語の意味と立体的に重なり合っていくのです。

 

3. 味わいを引き締める「料理設計」の技法

馬肉のロース肉は、非常に上品で脂質が少なく、クリアな赤身の旨味が特徴です。これをパネ(衣焼き)にすることで、肉汁を内側に閉じ込め、ジューシーな食感を担保しました。

 

そこに合わせる「煎茶のエキス」のソースが、重要な役割を果たします。お茶の持つタンニン(渋み)と不飽和脂肪酸の調和により、揚げ物でありながら後味を驚くほど軽やかに仕立てる。この繊細なアプローチこそが、コース全体のバランスを崩さずに肉の満足感を最大化する、プロの現場の料理設計です。

 

まとめ:これこそが、記憶に刻まれる「キラーメニュー」

この「馬肉ロース肉のパネ」は、単なる肉料理ではありません。

食材の産地、江戸の隠語、そして三味線が紡ぐ民謡から歌舞伎への音楽的アプローチ。そのすべてがパズルのピースのように噛み合うことで、このイベントの絶対的な主役(キラーメニュー)としての説得力が生まれます。

 

ストーリーを味わい、音を食す。この贅沢な一体感こそが、緻密なメニュー設計がもたらす、ふれんち茶懐石の真骨頂なのです。

 

ではまた、次回の実践編でお会いしましょう🍵

 

料理には、言葉にできない「おいしさ」と、言葉にすべき「理由」があります。

FRSコンサルティングでは、オーナー様の想いを「料理の設計図」として整え、現場での再現性を高める並走を行っています。

 

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