ふれんち茶懐石ノート|茶暦編 #01

鰤と大根の「春の身支度」 ——

若菜の生命力を宿す、向付の料理設計

 

こんにちは、料理設計家の秋本です。

「実践編」の三味線ラウンジに続き、今回からはふれんち茶懐石の根幹をなす「茶暦(五節句)」の献立を、1品ずつ全4回にわたって深くひも解く新連載をスタートします。

最初のテーマは、1月7日の「人日(じんじつ)の節句」、いわゆる「七草の節句」です。この伝統の精神を現代のレストランの価値へと翻訳する、最初のメニューコンセプトと料理の組み立てについてお話しします。

 

一皿の設計図:鰤と大根のサラダ仕立て 春の身支度

コースの幕開けとなる「向付(むこうづけ)」は、空腹の身体を優しく刺激し、これからの物語へと引き込む極めて重要な役割を持ちます。ここで私は、日本料理の冬の定番である「鰤大根」の出会いをベースに、清々しい前菜を構築しました。

 

1. 「人日」に隠された、命を慈しむ精神

人日の節句のルーツは、古代中国にあります。元日から6日目までは動物を占い、7日目に「人」を占ったことから、この日は「人を大切にする日(人日)」と定められました。当時は犯罪者に対する刑罰を行わず、お互いの無病息災を祈る日だったとされています。

この「命を慈しみ、健康を願う」という優しさと、お正月の祝膳で弱った胃腸を労わるという極めて合理的な思想こそが、このコースの根底にあるメニューコンセプトです。

 

2. 「若菜摘み」の生命力を、お茶の原点で表現する

日本には古来、雪の間から芽吹いた若菜を摘んでその生命力をいただく「若菜摘み」という風習がありました。自然の強いエネルギーを身体に取り入れることで、一年の邪気を払おうとしたのです。

この「緑の生命力」を皿の上に表現するため、私はお茶の原点である「碾茶(てんちゃ)」をじっくりと浸出させた特製のオイルドレッシングを設計しました。

主役には脂ののった冬の鰤。そこに、現代では大根としておなじみの七草「すずしろ(その根は汚れのない純白さを表すとされます)」を合わせ、碾茶オイルを纏わせます。すずしろのみずみずしい食感と、碾茶の上品な苦味とコク。これらを、春を目前にした大地をイメージして立体的に盛り付けました。

 

3. 緻密な「メニュー設計」が生む、最初のインパクト

この向付において、私はあえて強烈なスパイスや強い酸味を使いませんでした。 なぜなら、ここでの目的は「お正月のアッパーな余韻を一度リセットし、早春の清々しさに味覚をシフトしてもらうこと」だからです。

素材が持つ純粋な味わいを引き算の技法で引き立て、お茶の微かな苦味で身体をハッと目覚めさせる。この一連の流れるようなメニュー設計があるからこそ、この後に登場する温かいスープや、コースの主役であるキラーメニューが、より鮮烈にお客様の心に響くようになります。

 

まとめ:皿の上に、歴史の理由を引く

料理を設計すると、単に「鰤と大根は合う」という表面的な組み合わせを超えて、なぜその食材を使い、なぜその盛り付けにするのかという全ての問いに、はっきりとした「理由」が生まれます。

人日の節句が持つ優しさと、碾茶オイルが描く大地の息吹。これらが一つの皿の上で交差するとき、それはただの前菜ではなく、お客様の五感に響く「理由のあるふれんち茶懐石」のプロローグとなるのです。

 

ではまた、次回の茶暦編でお会いしましょう。次回は温もりのスープをひも解きます🍵

 

料理には、言葉にできない「おいしさ」と、言葉にすべき「理由」があります。

 

FRSコンサルティングでは、オーナー様の想いを「料理の設計図」として整え、現場での再現性を高める並走を行っています。

 

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[料理の設計図を引く]