[料理コンセプト:端午の節句]馬肉フィレ肉のステーキ |ふれんち茶懐石ノート|茶暦編 #11

馬肉フィレ肉のステーキ ——

「午の日」のルーツと尚武の精神を刻む、主菜(キラーメニュー)の料理設計

 

こんにちは、料理設計家の秋本です。

 

端午の節句のお献立を1品ずつひも解く連載の第3回。前菜の鰹、4時間かけたダブルコンソメスープに続いて、いよいよコースのクライマックスであるメインディッシュ(強肴)の登場です。私がこの特別な一皿の主役に選んだのは、これまでのフレンチの常識を心地よく覆す食材、「馬肉」でした。

 

一皿の設計図:馬肉フィレ肉のステーキ カフェドパリソースをオマージュした抹茶の泡を添えて

コース全体の満足度を左右するメインディッシュ。ここで私は、極めて柔らかくヘルシーな馬肉のフィレを主役に据え、フライパンでじっくりとロゼ色に火を入れました。

 

付け合わせには、初夏の息吹を感じる筍(タケノコ)のグリルと、端午の伝統的な「ちまき」をイメージしたクスクスを添え、フランス料理伝統の「カフェ・ド・パリバター」をオマージュした特製の抹茶の泡ソースをかけて仕上げます。この一皿の背景には、端午の節句の言葉のルーツに迫る、非常に知的な料理コンセプトが隠されています。

 

1. 「端午=午(馬)の日」という、歴史の原点に立ち返る

端午というのは、もともと「月の端(はじめ)の午(うま)の日」という意味であり、かつては5月に限ったものではありませんでした。しかし、歴史の中で「午(ご)」と「五(ご)」の発音が同じであることから、5月5日のことへと定着していったのです。

 

この「午(馬)」という存在は、数千年の昔から人類と共に歩み、特に日本の武家社会においては、戦の勝敗を分け、武士の命を預かるこれ以上ない特別な存在でした。また、馬は生まれて間もなく自らの足で立ち上がることから「独り立ちが早い(出世の縁起)」ともされています。

この「武士の精神と出世の願い」をストレートに伝える食材として、馬肉を選択すること。これが、今回のコースの核心にあるメニューコンセプトです。

 

2. カフェ・ド・パリの伝統を、抹茶の泡ソースへ昇華する

この力強い馬肉のフィレ肉に合わせるのは、フランス料理のエッセンスをモダンにアップデートしたソースです。ハーブやスパイスを複雑に練り込んだ伝統の「カフェ・ド・パリバター」の設計思想をベースに、抹茶を用いた軽やかな「泡のソース」を構築しました。

 

じっくりと焼き上げた馬肉のまろやかな赤身の旨味に、筍の心地よいエグみ、そして抹茶の泡ソースが持つ気品あるほろ苦さとスパイシーな香りが重なり合います。付け合わせのクスクスが肉汁とソースを優しく吸い込み、口の中で「ちまき」のような奥深い穀物の温もりが完成するように計算しました。

 

伝統をただそのままなぞるのではなく、歴史の文脈と現代のロジックを交差させて全く新しい価値を生み出す。この一連の組み立てこそが、お客様がこれを目当てに足を運ぶ絶対的なエース(キラーメニュー)を創り出すための手法なのです。

 

3. 計算された味わいと温度のバランス

馬肉のヘルシーでクリアな脂、筍のサクッとした食感、そして抹茶の泡がもたらす軽やかな後味。ボリュームがありながらも驚くほど上品に着地するこの完璧なバランスは、コースの終盤に向けてお客様の満足度を最高値へと導くための、プロの現場の緻密な料理設計です。全体にブレのないこのストーリー展開こそが、優れたメニュー設計の妙と言えます。

 

まとめ:皿の上に、節句の「理由」を宿す

料理を設計するとは、単に見栄えの良い一皿を作ることではありません。

「なぜ端午の節句にこの料理なのか」という問いに対して、午の日の歴史と武士の精神、そしてフランス料理の技術をもって完璧に応えることです。

 

そのロジックが美しく通っているからこそ、一皿はただの食事を超えて、記憶に深く残り続ける特別な体験へと変わるのです。

 

ではまた、次回の茶暦編でお会いしましょう。次回はいよいよ端午の節句の最終回、すべての余韻を一服のお茶へと収める「デザートと薄茶」の設計図をお届けします。お楽しみに🍵

 

料理には、言葉にできない「おいしさ」と、言葉にすべき「理由」があります。

FRSコンサルティングでは、オーナー様の想いを「料理の設計図」として整え、現場での再現性を高める並走を行っています。

 

詳細はこちら:

[料理の設計図を引く]